2025/10/09 00:05

今日も仕入れをしようと思って、ノートPCを開いた。
近頃またアツくなってるダンスミュージックを、なんとなく流してた。
四つ打ちのリズムが壁を叩くたびに、
少しだけ現実の音が遠ざかる気がした。
昼間の自分と夜の自分は、
同じ人間のふりをしている別の生き物だ。
昼は売るために考え、
夜は理由もなく考える。
今日もその境目に、音と酒を置いている。
グラスの中のアルコールが減るたびに、
頭の中の“やるべきこと”が泡みたいに消えていく。
気づけば、曲のリズムが鬱陶しくなっていた。
心の奥の別の層が、静かに顔を出す。
寄って手が勝手にプレイリストを切り替えていた。
アジカン、エルレ、ワンオク──あの頃のロック。
ケツメイシ、リップスライム、オレンジレンジ──夏の空気と笑い声。
AKB、YUI、いきものがかり──テレビからこぼれる光の粒。
イントロが流れた瞬間、部屋の温度が変わった。
2000年代の埃っぽい風が、
カーテンの隙間からそっと入り込んでくるような気がした。
制服のまま寄り道してた放課後。
コンビニの袋をぶら下げて、
なんとなくいつもの公園に向かう。
いつも同じメンツ。
多くもなく、少なくもなく。
静かに笑える相手がいれば、それで十分だった。
あの頃の俺たちは、未来を知らないまま未来を語ってた──なんて言葉、
実際はちょっと違う。
語るほどの未来なんて、なかった。
ただ、世間にムカついて、
なんとなく息苦しくて、
公園で缶チューハイを開けて、
寒い夜の空気を吸い込みながら、
「マジでだりぃな」って笑ってた。
友達のひとりがスケボーを持ってきて、
調子に乗って乗っては転んで、
そのたびに俺は笑って、
自分も乗ってみて、うまくいかなくて笑われて。
何をしてるわけでもない。
でも、帰る理由もなかった。
コンビニのネオンの下で、
世界がどうでもよく見える瞬間があった。
夜が終わるころには、
もうどうでもよくなって、
松屋で朝定を食って、
そのまま学校に行くか、
なんとなく休むか。
そんな日々のくり返しだった。
今思えば、何の意味もなかった。
でも、“意味がない”って、あの頃の俺たちには最高の自由だった。
何者でもないまま笑っていられたあの時間が、
いまになって、やけに鮮明に思い出される。
結局、新しい音を追いかけても、
最初に刺さった場所に戻ってくるんだ。
人は変われるくせに、根っこの音だけは変えられない。
たぶんそれが“ルーツ”ってやつなんだろう。
角も炭酸も切らしてる。
だから今夜は、氷なしのキンミヤ水道水割。
ぬるいけど、それが一番落ち着く夜もある。
酒が回ると、時間がゆっくり壊れていく。
SNSのタイムラインを流しながら、
「みんな光ってんなぁ」と思う。
白い壁、整った文字、余白の美学。
あの均一な世界の中では、
どんな影も“トーン”として処理されてる気がする。
俺はといえば、
散らかった机の上に置いたメガネと、
開けかけの封筒と、
中途半端に残ったやる気を眺めてる。
それでも生きてる。
たぶん、俺の“映え”はもうとっくに腐ってる。
でも、腐ったって光るもんがある。
ネオンの看板のように、
時々チカチカしながらも、
そこに立ってるだけで夜の景色をつくる。
光を見て笑う。
でも、その笑いの奥ではずっと羨ましいと思ってる。
まぶしさに目を細めながら、
「いつか自分も」とはもう言わなくなった。
言葉にした瞬間、
その夢が安っぽくなる気がするから。
でも、そうやって言葉を飲み込む自分が、
少しずつ遠ざかっていく気もする。
光からでも、影からでもなく。
ただ、間の空気に溶けていく。
たまに思う。
あの頃の俺に今の俺を見せたら、
笑うだろうか。
怒るだろうか。
それとも、「まぁ、そんなもんか」と言うだろうか。
多分、全部だ。
それでもきっと、「生きてるだけで偉い」って笑ってくれる気がする。
酔うほどに、考えが柔らかくなる。
昔、付き合ってた彼女が言ってた。
「あなたってさ、楽しそうに悩むよね。」
あれは褒め言葉だったのか、呆れだったのか。
今でもよくわからない。
でも確かに、悩むことでしか呼吸できない人間なのかもしれない。
生きるって、選択の連続だ。
でも俺は、選ばないことを選ぶ癖がある。
だからこそ、夜が長い。
光と影の境界に立って、
どっちにも染まらないまま歳を取った。
それでも嫌じゃない。
光が遠くにあってくれるおかげで、
自分の暗さに形がある。
スカイツリーが建つ前の東京の空を思い出す。
まだ何もなかった空。
見上げても“希望”なんて言葉が浮かばなかった空。
でも、その曖昧さが好きだった。
今の俺にとっての希望は、
ちゃんと笑って“諦める”ことかもしれない。
やめることも、続けることも、
どっちも生き方だ。
皮肉ってるくせに憧れて、
憧れてるくせに皮肉る。
たぶん俺はずっとこのループの中で生きてる。
でも、それでいいと思ってる。
光の中に入りたいわけじゃない。
光を見てる自分でいたい。
まぶしい世界を遠くから見ながら、
ぬるいキンミヤをちびちびやる夜。
自分の人生の温度は、
たぶんぬるま湯くらいがちょうどいい。
熱すぎると続かないし、
冷たすぎると味がしない。
みんな光りたい。
俺だって光りたい。
でも、光れないままでも、
こうして言葉を残してる。
それが生きてる証拠か、
ただの暇つぶしかは、
もうどうでもいい。
応援してくれる人がいる。
その存在だけは本当だ。
だから今日も、光れないままでも、
ちゃんと夜を過ごそうと思う。
オレンジレンジが遠くで鳴っている。
あの頃のように。
でも、あの頃とは違う速度で。
水道水の味が少し甘くなった気がした。
そして思う。
きっと明日も同じ夜を過ごす。
でも、それでいい。
繰り返す夜があるから、
俺はまだ“途中”でいられる。
店主の夜レコメンド:
「迷ったら、水道水で割って考えろ。」
